雪白の月

act 8

岩瀬が廊下に出ると石川は各班長に指示を出していた。

「お待たせしました。」

そう言って近づいてくる岩瀬をチラリと見て石川は頷く。

「そうだ…これから岩瀬を向かわせる。」 そこで無線を切り、そして…
「岩瀬…これからもう一度外警の見回りに行く。が、お前は中央管理室へ行って内藤さんに事後報告をしろ。」
「え!?一緒に行きますよ!」
「来るな!!」
「石川さん…?」

そこで岩瀬は石川が一度も視線を合わさないことに気づく…

「…悠さん!ちゃんと俺を見て言って下さい!!」
「岩瀬…今は仕事中だ。『隊長』と呼べ…」

そう言う時も石川は岩瀬を見ようとしない… 焦れた岩瀬は石川の肩を掴み強引にこちらを向かせる。
少しの抵抗の後― 石川が渋々といった感じで岩瀬に向き合う… けれど。 
やはり視線は違うところへ向けられたままだった…

「石川さん!きちんと話しましょう!一体何があったんですか?」
「…何も…」
「ないはずないでしょう!?」
「本当だ…」
「…だったら何故、貴方はそんな顔をしているんですか?しかも、俺を見ませんよね?」
「…それは関係ない…」
「関係あります。」
「無い。…今はそんな事を話している時間は無いんだ…」
「石川さん!!」

石川の拒絶は明らかで…。 
そして実際、口論をしているような時間もなかった。

「…仕事が終われば、話してくれるんですよね…?」

岩瀬の瞳が石川を捉える。
その瞳は…何時ものように優しさを湛えたものでなく。 どこか暗い狂気めいた物が浮かんでいる…。
その視線を受けた石川は、 その瞬間に覚悟を決めた。
そして、岩瀬と視線を合わせハッキリと答える。

「あぁ。約束する。だから離せ。」
「…解りました…ですが、一人で行動するのは止めてください!なんと言われようと付いて行きますよ!」

岩瀬は『これ以上の譲歩は出来ません』と訴えている。
こうなったら岩瀬は何が何でも付いて来るだろう…。
石川は一瞬苦い顔をしたが…

「いいだろう…」 そう言って岩瀬から離れ踵を返し…中央管理室へと向かい始めた 。
その後を付いて行きながら岩瀬は…


『…参った… 俺が目を覚ますまでに何があったんだ?しかも…悠さんを追い詰めるつもりじゃなかったのに…』


石川の背中から発せられる「拒絶」の気配に岩瀬はどうしようもなく。
深い溜め息をついたのだった…








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